2025.03.21

フィルムコンデンサの基礎知識

  • 電子デバイス部門

前回コンデンサ全般とアルミ電解コンデンサについて説明しました。今回説明するフィルムコンデンサは体積あたりの静電容量はアルミ電解コンデンサに劣勢であるものの、アルミ電解コンデンサの課題である電解液使用により温度やリプル電流が大きいと徐々に電解液が抜けていくドライアップ寿命が無く高寿命が期待できることや、高い定格電圧、低ESR(内部等価直列抵抗)であるためノイズフィルタ用、平滑用など様々な用途で使用されています。本記事にてフィルムコンデンサの構造や特長、応用例を紹介します。

目次

    フィルムコンデンサの概要

    フィルムコンデンサは、誘電体に高分子フィルム(プラスチックフィルム)が使用され、内部電極の形成法の違いにより箔電極タイプと蒸着(メタライズド)電極タイプ(フィルム上に金属化フィルムを蒸着)に大別されます。また構造の違いにより巻回型と積層型、誘導型・無誘導型などに分けられます。

    種類 アルミ電解コンデンサ セラミックコンデンサ フィルムコンデンサ
    日本ケミコン株式会社のアルミ電解コンデンサ 日本ケミコン株式会社の積層セラミックコンデンサ 株式会社タイツウの樹脂ケースタイプと粉体樹脂ディップタイプのフィルムコンデンサ
    弊社取扱いメーカー 日本ケミコン株式会社 日本ケミコン株式会社 株式会社タイツウ

    主な特徴

    • 無極性 ⇒ 無極性のためAC入出力回路(ノイズフィルタ)やLC共振回路などに使われます。
    • 絶縁抵抗が高い ⇒ 漏れ電流が小さい(電荷保持に優れる)
    • 低ESR ⇒ 高周波特性が良好
    • 高い定格電圧 ⇒ アルミ電解コンデンサは600V程度まで。フィルムコンデンサは1000V以上の製品もあります。
    • 印加電圧、温度に対する静電容量の変化が小さい
    • 高信頼性、高寿命 ⇒ 蒸着電極タイプのセルフヒーリングや保安機構

    フィルムコンデンサの構造と材料について

    電極

    箔電極タイプはAl、Sn、Cuなどの金属箔を誘電体のプラスチックフィルムを重ねてロール状に巻いて構成されます。蒸着電極タイプはAl、Znなどの金属を誘電体のプラスチックフィルムに蒸着させて内部電極を形成したものです。近年では蒸着電極タイプが一般的です。箔電極タイプと比べて蒸着電極タイプは蒸着膜が薄いため高容量化しやすく小型化を実現できます。また蒸着電極タイプはセルフヒーリング機能(自己回復)に優れ、絶縁破壊(ショート故障)した場合でも故障個所がオープン状態になることによりコンデンサとしての機能を回復することができる優れたコンデンサですが、電極蒸着箇所をパターンニングすることによりヒューズ機能を構成(保安機構)することができ、万一絶縁破壊した場合でもそのセルを切り離すことができ、より高信頼性を実現できる構造にすることも可能です。

    蒸着(メタライズ)電極タイプの保安機構

    内部電極の構造。各セルにヒューズ部分があり、絶縁破壊が発生すると、短絡電流により、そのセル部分のヒューズ部分が切断される。

    誘電体材料

    使用される材料の種類によって特性が大きく変化し、適用される領域も異なってきますが、誘電体材料にはPET(ポリエチレン・テフレタレート)やPP(ポリプロピレン)が一般的に使用されています。PPは絶縁抵抗が高く(漏れ電流が小さい)、低tanΘ(低損失)であるため大電流用途に適しており、PPを使用した製品が一般的になっています。(異なる誘電体材料を組み合わせた複合タイプもあります)

    巻回型など構造

    工法には巻回型と積層型があり、巻回型は電極材(箔あるいは蒸着)と誘電体のプラスチックフィルムを重ねてロール状に巻いて構成されたもの、積層型は言葉の通り電極材と誘電体のプラスチックフィルムを積層したものです。巻回型は製造が容易であるため現在は一般的です。誘導型は内部電極にリード線を付けて巻き取ったもの、無誘導型は端面にリード線あるいは端子電極を取り付けた構造です。無誘導型は誘導型とくらべて、インダクタンス成分が小さくなり高周波特性にすぐれます。

    フィルムコンデンサの応用例と用途

    スイッチング電源(フィルタ、DC-Link、共振回路)

    switching_circuit

    産業用インバータ(フィルタ、DC-Link、スナバ回路)

    inverter_circuit

    フィルムコンデンサの用途

    1. Xコンデンサ:ノーマル(ディファレンシャル)モードノイズ対策
    2. Yコンデンサ:コモンモードノイズ対策
    3. DC-Link:電圧の平滑化やノイズ対策
    4. 共振回路用:LC共振周波数設定用
    5. スナバ回路:パワーデバイスのスイッチングノイズ対策

    Xコンデンサはノーマルモードノイズの大きさによって静電容量は調整しますが一般的には0.1~10μF程度が使用されます。静電容量が大きいほどインピーダンスが小さくなりノイズ除去能力は高くなりますが、サイズや価格にも影響しますのでそのあたりの考慮も必要になります。Yコンデンサも静電容量が大きいほどインピーダンスは小さくなりますが静電容量が大きいほどアースへの漏れ電流も大きくなってしまうため一般的には1000~4700pF程度が使用され、ノイズに対してはチョークコイルとあわせて検討する必要があります。またXコンデンサ、Yコンデンサは電源ラインのノイズ対策部品として使用されますが、商用電源には漏電や感電のリスクがあるため安全基準が設けられています。

    IEC60384-14

    漏電による火災や感電などを防止する観点から、商用電源に接続されるコンデンサの耐電圧性や難燃性などの安全性能について定める国際規格。また商用電源ラインには雷サージが印加される可能性があるためサージ耐性クラスが規定されています。

    Xコンデンサ

    サブクラス ピーク電圧
    X1 ≤4kV
    X2 ≤2.5kV

    Yコンデンサ

    サブクラス ピーク電圧
    Y1 ≤8kV
    Y2 ≤5kV

    本記事ではフィルムコンデンサの特徴や用途について説明しました。
    昨今カーボンニュートラルに向けてフィルムコンデンサは高信頼性、高寿命であることも背景に自動車のxEV化では走行モータ駆動用インバータ、産業用途では再生可能エネルギー(太陽光発電パワーコンディショナー)など高電圧かつ大電力の機器での需要・採用が増えており、今後のパワーエレクトロニクス機器において益々重要な製品になっていくと思われます。
    次回の記事では、「セラミックコンデンサ」について詳しくご紹介いたしますので、ぜひご覧ください。

    弊社では、フィルムコンデンサを取り扱っております。お客様の用途に最適な製品をご提案いたしますので、ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。




    関連ページはこちら